従業員の雇用状態
従業員の雇用状態遷移、退職時の法的要件、再入社、在籍期間、出向・転籍、海外赴任、死亡退職、休職中の非課税給付を整理する。
雇用状態
従業員は以下の雇用状態を持つ。退職済みの従業員が同一企業に再入社する場合、法定保存期間内であれば同一従業員として紐づけ、新しい在籍期間を開始する。
在籍中
- 通常の就業状態。年始調整の申告対象
- 部署・事業所に所属し、進捗管理の対象となる
休職中
- 産休・育休・病気休職等の理由で一時的に就業していない状態
- 休職開始日と休職理由を記録する
- 部署所属は維持される
- 年始調整の対象になるかは個別判断(年中に給与が支払われていれば対象)
退職済み
- 退職した状態。退職日を記録する
- 年始調整の対象外(ただし年中に退職した場合は当年分の処理が必要な場合がある)
退職に伴う法的要件と情報の性質
退職すると、従業員に関する情報の性質が変わる。
組織上の事実
- 退職した従業員は組織に属さない。部署・事業所との関係は消滅する
- 過去の帳票(源泉徴収票・給与支払報告書等)に記載された当時の部署名は、帳票自体が保持している(組織側が保持する必要はない)
家族構成の扱い
- 家族構成は控除判定のために収集される情報である
- 退職後、控除判定の必要がなくなった家族構成情報は、申告データ側にその時点の状態が記録されている
- 退職後に家族構成が変わっても、過去の申告には影響しない(申告時点の状態で確定済み)
税務データの保存義務
- 源泉徴収簿・源泉徴収票・給与支払報告書等の税務関連データは、税法上の保存義務(7年)に基づき保持する
- 保存義務の起算は退職日ではなく、当該データに関連する申告期限の翌日から(実務上は退職年度の翌年1月以降)
再入社
退職した従業員が同じ企業に再び入社するケース。1人の従業員が複数の在籍期間を持つことがある。
在籍期間
従業員が入社から退職までの1回の雇用契約に対応する期間。
- 同一年内に退職→再入社した場合、源泉徴収票は両期間を合算して1枚で発行する(所得税法第190条)
- 退職所得控除の計算には在籍期間の勤続年数が関わる(所得税法第30条)
出向・転籍
従業員が他の法人で勤務する形態。給与の支払者と年末調整の実施者が変わりうる。
在籍出向
出向元に籍を残したまま、出向先で勤務する形態。
- 給与の支払パターン: 出向元が全額支払う場合、出向先が全額支払う場合、両者で按分する場合がある
- 年末調整の実施者: 主たる給与(甲欄適用)の支払者が実施する。通常は出向元だが、出向契約による
- 扶養控除等申告書の提出先: 主たる給与の支払者(1社のみ)
- 出向先からも給与が支払われる場合、従たる給与(乙欄適用)となり、その分は年末調整に含めない(確定申告で精算)
転籍出向
出向元との雇用関係を終了し、出向先と新たに雇用契約を結ぶ形態。
- 出向元からの 退職 として扱われる → 出向元は源泉徴収票を発行する
- 出向先での 中途就職 として扱われる → 出向先が前職分を含めて年末調整を行う
- 前職の源泉徴収票による給与・徴収税額・社会保険料の通算が必要(→ 年末調整の対象者)
グループ企業間異動
年の中途でグループ企業間を異動し、給与支払者が変わるケースは転籍出向と同じ扱い。
- 異動前の法人が源泉徴収票を発行
- 異動後の法人が前職分を含めて年末調整を実施
海外赴任(本人が非居住者となるケース)
従業員本人が1年以上の予定で海外に赴任し、非居住者となるケース。非居住者親族の扱いは → 非居住者親族 を参照。
居住者・非居住者の判定基準は → 非居住者親族 を参照。
→ 出国時年調・非居住者期間中の取扱い・帰任時の処理の詳細は 出国時年末調整 を参照。
→ 外国人従業員に特有の論点は 外国人従業員の年末調整 を参照。
死亡退職
従業員が死亡した場合、死亡時に年末調整を行う義務がある(所得税法第190条第1号イ)。
死亡時の年末調整
- 死亡日までに支払われた(支払うべきことが確定した)給与について年末調整を実施する
- 死亡時の現況で扶養親族等を判定する
- → 年末調整の対象者(「死亡により退職した」に該当)
準確定申告との関係
- 死亡した人の所得税は、相続人が 準確定申告 を行う(所得税法第125条)
- 準確定申告の期限: 相続の開始があったことを知った日の翌日から 4か月以内
- 年末調整で精算が完了していれば、給与所得のみの場合は準確定申告が不要なケースもある
相続人への義務
- 源泉徴収票を 相続人 に交付する義務がある
- 死亡後に支給される給与(死亡後に支給期が到来するもの)は相続財産となり、所得税の課税対象外(相続税の対象)
退職所得の受給に関する申告書
退職金の支払を受ける者は、「退職所得の受給に関する申告書」を退職金の支払者に提出する。この申告書の提出の有無により、源泉徴収税額が大きく異なる。
申告書が提出された場合(原則)
支払者は退職所得控除・1/2課税等の正規の計算を行い、適正な税額を源泉徴収する。この場合、退職所得に係る所得税は源泉徴収で完結するため、原則として確定申告は不要。
→ 計算の詳細は 退職所得 を参照
申告書が提出されない場合
支払者は退職所得控除等の計算を行わず、退職金の支払額に対して 一律20.42%(所得税20% + 復興特別所得税0.42%)を源泉徴収する(所得税法第201条第3項)。
- 正規計算に比べて過大な税額が徴収されるため、受給者は確定申告により精算する必要がある
- 年末調整では精算できない(退職所得は分離課税)
実務上の注意
- 退職所得の受給に関する申告書は、マイナンバー帳簿方式(→ マイナンバー)の対象であり、帳簿を備えていればマイナンバーの記載を省略できる
- 申告書は退職金の支払を受けるまでに提出が必要(支払後の提出は認められない)
- 支払者は申告書を受領した場合、退職の日の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間保存する義務がある
休職中の非課税給付
産休・育休等で休職中の従業員に支給される給付金の多くは非課税であり、年末調整に影響する。
非課税となる給付
| 給付 | 根拠 | 課税関係 |
|---|---|---|
| 出産手当金 | 健康保険法第102条 | 非課税(所得税法第9条) |
| 育児休業給付金 | 雇用保険法第61条の7 | 非課税(所得税法第9条) |
| 出産育児一時金 | 健康保険法第101条 | 非課税 |
| 傷病手当金 | 健康保険法第99条 | 非課税(所得税法第9条) |
社会保険料免除
- 産前産後休業期間・育児休業期間中は、健康保険料・厚生年金保険料が免除される(健康保険法第159条の3、厚生年金保険法第81条の2の2)
- 免除された保険料は社会保険料控除の対象にならない(実際に支払っていないため)
- 年末調整の社会保険料控除額は、実際に給与から天引きされた額のみとなる
配偶者・扶養親族の所得判定への影響
- 非課税給付は 合計所得金額に含まれない
- 休職中の配偶者の収入が育児休業給付金のみの場合、合計所得金額はゼロとなり、配偶者控除の対象になりうる
- 同様に、休職中の家族が扶養親族の所得要件(合計所得金額48万円以下)を満たす場合がある
- 年始調整では、休職中の配偶者・親族について、給与以外の非課税給付を所得に含めないよう注意が必要